今月の独想記 ■
平成15年 1月 「シックハウス対策の基準法義務化」

 今年7月からシックハウス対策が建築基準法で義務化され、この対策基準を満たさない建築物は確認申請が通らないことになった。対策の主な柱は「ホルムアルデヒド発散建材の面積制限」と「原則全ての建築物に24時間機械換気設備の義務づけ」である。

 内装仕上げ材や建材がホルムアルデヒドの発散速度によってランク分けされ、その等級と室内の換気回数に応じて使用面積が制限される。これによって建て売り住宅など、これまで材料の選択を業者のモラルにまかせていた感があったのが、行政の指導の介入ということで少しは改善の兆しがみえることだろう。

 それから、もう一つの大きな柱である「24時間機械換気の義務づけ」はようやく換気の重要性が認められたといったところだろうか。機械換気というと抵抗感のある人もいると思うが、これは何も天井裏にダクトをはりめぐらせて集中的に大げさな機械で換気を行わなければいけないというわけではなくて、トイレや風呂や洗面所の換気扇を利用して十分に対応のできることであり、あまり目くじらを立てることではない。これまでのように換気扇の能力を把握して適切な換気経路を確保すればよいことである。もちろん、天気の良い日には窓を開けて外気に接することも問題ない。

 やっとシックハウスに対して行政が動き出した。これからは少なくとも原状よりはシックハウスに罹患する人の数が減っていくと思われるが、問題はもうすでに罹患してしまっている人達の問題である。

 昨年横浜で開かれたシックハウス対策研究会の講演会に参加した時の話である。

 まず、シックハウスという病気が正式に認知されていないため、患者は日常生活をする上で、「専門医がなかなかいない」「住める場所が限定される」など資金的な面も含めて大変な苦労をされていることを知らされた。会場には建築関係者に交じって数多くのシックハウスにかかっている当事者やその親御さん達が詰めかけていた。そして当事者からの発言を耳にして、そのせっぱ詰まった雰囲気が身にしみて感じられた。

 我々設計者もシックハウス対策については設計上、かなり気をつけているつもりではあるが、やはり、当事者でないだけに甘く見ていた部分が多い。外を歩いていて、よその家のテレビが付いたのがわかる子供がいるそうである。最初、その親はこの子は超能力があるのでは、と驚いていたのだが、実は電磁波、あるいは電源を付けている時にテレビから放射されるスチレンに反応して化学物質過敏症の症状が体に現れたということである。またある人は化学繊維が混入された服を着ている人、前日に飲酒をした人、化粧をしている人などの側にはよれず、なかなか治療のために病院に通うということもままならないらしい。このように、たんにホルムアルデヒドだけが原因ではなく、その他のある化学物質に罹患したことによって複合的に様々な化学物質などに反応してしまうことが多いとの報告があった。

 極論してしまえば、一旦、化学物質過敏症になってしまった人達を、医者でない我々設計者は治療することはできない。できることは、これ以上悪化しない、あるいは少しずつでも症状が改善するように、個別の症状に合わせて住まいをつくることでしかない。ただこの問題は想像以上に奧が深く、原状ではこれといった根本的な解決方法もない難しい問題である。   

 医学界における治療方法の早期確立と、建築界における疑わしきモノの入口規制のさらなる強化が必要であるが、建築基準法のシックハウス対策の義務化元年に合わせてそういった症状にかからない住まいをつくっていくことが重要である。


平成14年11月 「低価格ならローコスト住宅?」

 『「ローコスト住宅」が危ない!』という本が先月発売されました。(「参考になる本」のコーナーでも紹介しています。)

 坪当たり30万円台、40万円台と大々的に宣伝されているメーカー系やフランチャイズ系の住宅がどうして安いのかということの一端がこの本を読んで認識できるはずです。当然大量仕入れなどの企業合理化によって価格を抑えようという努力もあるのだとは想像するのですが、“やはり・・・”でした。簡単に安くなるのなら、業界全体が揃って価格を下げるはずです。そうならないのは、当然そのわけがあるはずです。首を傾げたくなるほどのローコストの裏には、必ず何かが犠牲になっています。その犠牲になるものの最たるものが家の丈夫さだというのでは・・・(ため息)。

 この類のローコスト住宅は、当初の支払金額は少なくなるかもしれませんが、50年60年70年といった長いスパンで比較した時に、果たしてそれが本当にローコストなのかということをもう一度考えてみるべきかもしれません。“安物買いの銭失い”では後悔してもしきれません。第三者的な立場の監理者がいない建て売り住宅などの場合では、つくり手側に少しでも「しょせんローコスト住宅だから。」「売れればいいんだから。」といった気持ちがあると、職人であれ経営者であれ、当然儲けるための悪知恵が働くことになります。そうして、「どうせ見えりゃしないのだから。」というつくり手としての意地とプライドを捨て去った上で、ようやくこういったローコスト住宅が日々出来上がっていくのではないでしょうか。

 自分もローコスト住宅を一つの目標に掲げていますが、ただ単に安いという意味で「ローコスト」という言葉を用いているわけではありません。つくる側も住む側もみんなが納得して誇りの持てる範囲での適正な価格のことを、=“ローコスト”と表現しているのです。過剰な装飾や設備は極力抑える反面、きっちりとした構造計画と風の通り道を考え、当初はシンプルな住まい方ができる住宅を提供できればと考えています。また、住みながら自分達で住みやすいように手を加えていくことが出来るような住宅が理想でもあります。


平成14年 9月 「時代への逆行?」

 マンション暮らしの長い自分ですが、木造の民家で生まれ育ち、はなれにあった汲み取り式の便所には、夜小さい頃一人では行けなかった思い出があります。風呂もなく、毎日銭湯通いでしたが、冬でも上半身裸で星を眺めながら帰ったものでした。その家を出て20年近く。今の一般的な基準ではとても快適とはいえないそんな生活がとてもなつかしく感じられます。

 数年前、自分がまだゼネコンの設計部にいた頃、その家は取り壊され、地元の大工さんの手で新しく建て替えられました。ヒノキの6寸角の柱等を使った見事な軸組でしたが、いざ出来上がったその家を見ると、和室を除いては、ビニルクロス貼りの壁や天井ばかりで、どこかハウスメーカーの建てる住宅のようでした。「どこかおかしい、これではいけない。」という漠然とした気持ちと、「家づくりをしたくて建築の道に進んだのだ。」という初心を思い出し、一念発起して家づくりの道に転身しました。いわゆる“ビルもの”、“箱もの”といわれる建物ばかり設計してきた自分にとっては、学べば学ぶほどその奥深さが感じられる木造住宅は常に新鮮でした。

 「ヒノキの香り」と言われてもあまりピンとこなかった自分でしたが、今では樹木だけでなく木材を見ただけで心が落ち着くのが不思議でなりません。樹木は製材されて板材になった後でも、非常に個性的です。見た目ばかりでなく、その醸し出す香りは様々です。スギ、ヒノキの香りは、この頃は結構身近に体験できるかもしれませんが、一度、「イチョウ」の香りを嗅いでみて下さい。住宅の仕上げ材というよりもまな板によく使われていますが、最初嗅いだときは強烈な匂いで、思わず笑ってしまいました。これなら殺菌作用もありそうだな、と。

 そんなこんなで、まだまだ家づくりに関してはスタート地点に着いたばかりですが、住み心地というプラスαにこだわって、家づくりをしていきたいと考えております。


平成14年 7月 「断熱材についての法改正」

 6月から使えない断熱材が出てきた。建築基準法の改正に関連して、これまでなんの問題もなく使っていた、発泡プラスチック系の断熱材や自然系断熱材は、国の指定試験機関で試験を実施し、防火に関しての認定をあらたに取得しなければ、防火地域・準防火地域、あるいは法22条区域の延焼のおそれのある部分で使用できなくなった。

 これまでは断熱材自体の防火性はほとんど問われず、一番外側に使用される外壁材の防火性だけが問題だった。しかし、これからは外壁としての防火性が問われるように法律が改正され、断熱材を含めた外壁材+内壁材の組合せで防火性能を確保しなければならなくなった。このこと自体は住宅の防火性能上、好ましいことではあるが、困ったこともある。

 グラスウールやロックウールを断熱材に用いるか、あるいは内壁材に石膏ボードを貼った充填断熱ではそれほど問題にはならないのだけれども、外張り断熱の時に外壁材の選択の幅が狭まったことである。どういうことかというと、断熱材メーカーは防火性能の認定を取得する際に、まずどの外壁材との組合せで認定を取るかを考える。その時に選択される外壁材は何かというと、どのメーカーに問い合わせても、試験するのに一つの組合せごとに百万単位の金がかかるので、窯業系サイディング(セメントを基材として、表面にあたかも石張りやタイル貼りレンガ積みのような凹凸や着色を施したもの)だけであるとの答えしか返ってこない。なぜなら、大規模な供給先であるハウスメーカーはほとんど全てと言っていいほどにこの外壁材を使用しているからである。そのため、土壁とまではいかなくとも、モルタル下地の左官壁や木材の外壁への使用がかなり制限されてしまった。

 それでは、素直に窯業系サイディングを外壁に使えばいいではないかと言われそうであるが、シンプルなものを除いて、できれば使いたくないのが本音である。各メーカーは10年補償をうたってはいるけれども、その後はどうするのだろうか。できた当初が一番きれいで、あとはみすぼらしくなるばかりのこの外壁は、精巧に石やレンガ積みを真似ているものほど補修がきかない。例えば、タイルを真似たサイディングのタイル部分と目地部分を一体どうやって塗り分ければよいのだろうか。全体をタイルの色で吹き付けて、目地部分を一つずつタッチアップしていくのだろうか。いや、とてもそんな手間暇をかけて補修する人はいないだろう。そうすると、自ずと、取り替えということになるが、同じ製品が廃番になっていることがままあり、結局、同色で塗りつぶしてしまうか、あるいは全面貼り替えということになってしまう。

 一方、年月が経てば経った時なりの味わいのある左官壁や木板張りはちょっとしたメンテナンスで物理的にも美観的にもずっと長持ちする材料である。法律違反をする気はないが、できる限りそういった材料を使っていきたいと考えている。

 窯業系サイディング以外の外壁の業者と話をしていても渋い顔である。「得をしたのは、グラスウール業界と石膏ボード業界だけですよ。」

※ 法22条区域:防火地域及び準防火地域以外の地域について特定行政庁が指定する区域で、これは広域的な防火対策を図るために、建築物の屋根を不燃材料で造るか、又はふくこと等を義務づけた区域で、都市計画区域内では、ほとんどが対象とされている。また屋根だけでなく、外壁についても延焼のおそれのある部分は防火上の措置を講じる必要がある。

※ 延焼のおそれのある部分:建築物の部分が、道路中心線・隣地境界線・同一敷地内の2棟以上の棟相互の、外壁間距離の中心線より、1階は3m以下、2階以上は5m以下の距離にあるものをいう。


平成14年 5月 「設計は、体力勝負」

 我が家ではネコ2匹(2匹なんて言ったら怒られるかな)と同居しております。ふたり(?)ともメスですが、全く性格が違います。同じ生活環境の中で育っても、こうも性格が違うものかと半ばあきれています。

 ネコ同様、人間も持って生まれた性格(=本能?)があるにもかかわらず、生活環境(住まい、学校、職場、友人など)の中で育まれていく性格というのが大きな比重を占めているのではないかと思います。

 そんな意味で、設計を通してほんの一部ではあるかもしれませんが、人間形成の場に立ち会えることは非常に責任重大で、またその一方で本当に有意義な職業なのだと常々自問自答しています。

 ホッとできる住まいづくりをいつも頭の片隅に入れながら設計をしていますが、機会があれば一度、“ネコからみたホッとできる住まい”なんてのもできれば楽しいだろうなあと、空想を膨らませています。

 いつもネコの運動神経には感心していますが、自分もまだまだ捨てたものではないと自画自賛しております。昔やっていたバスケットや水泳、アイスホッケーなど、最近はほとんどする機会もありません。もっぱらこの頃は“やるスポーツ”よりも“観るスポーツ”ばかりです(野球は巨人、サッカーはエスパルス)。ただ、設計には知識や知恵よりも体力(=耐力)勝負の時が多々あります。そんな時のために、たまの休みには子供と一緒にプールで泳いでます。

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